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改造人間リアルアイドル 〜第一章〜

第三話 Mちゃんの微笑み事件〔1〕


「岩崎くん、消しゴム貸してくれる?」

 前の席の新木真子がクルッと振り返り、ぼくの顔をパッっと見つめて言った。

「うん、いいよ。」と言って、一瞬ドキッとしたのを悟られないよう平静を装いながら、ぼくは消しゴムを彼女に手渡した。これが、ぼくが新木真子と初めて交わした言葉だった。そして、これがすべての間違いの元だった。

 新緑のころ、少し気だるい五月のこと。ぼくは高校二年生になった。新木真子はまったく人見知りしない女子だった。相手が先生だろうと、先輩だろうと、初対面の相手だろうとおかまいなしに、サラッと普通に友達のような感じで話しかけていく。
 元人見知りで元口下手なぼくからすれば...いや、違う。女子に対しては今だに口下手継続中のぼくにとって、彼女はまさしく尊敬に値する女子でもあった、というのが正解だろう。いや、ちょっと待って...尊敬という言葉は少し違うかもしれない。

新木真子
 丸顔で、目がクリッとして可愛くて、ショートヘアでボーイッシュな感じの、とても元気で活発な女子だった。また、クラス内でひときわ目立っている"イケてる風オシャレ女子"たちとは違って、身につけているものやヘアスタイルに飾った感じがなく、素朴で、とても好感が持てる女子だった。

 ぼくのように、根本的な部分で自信がない根暗男子にとっては、憧れ〔あこがれ〕の要素と、もしかしたら自分にも手が届くかもしれないと思える親近感の要素の両方を合わせ持つ、まさしく本当の意味での魅力的な女子でもあった。

 それにしても、どうしてぼくから消しゴムを借りようとしたのだろうか。思わず(まさか、ぼくのことが?...)なんて考えてしまう。両隣の席にも、前にも、斜め前後にも、いくらでもクラスメイトがいる中で、わざわざ真っ先に後の席のぼくに借りようと思ったのはなぜなんだろうか。(もしかして?...)なんて、ちょっと期待してしまう。

 それから数分後。

(ん?)

...消しゴムが返ってこない。

 貸した直後は、すぐに彼女の右ひじが小刻みに動き出したので、消しゴムを使っている様子が分かったんだけれど、右ひじの動きが止まってからかれこれ数分間、ぼくに消しゴムを返そうとする気配がまったく見られない。

 ぼくだって、けっして消しゴムを2つ持っているわけじゃない。(どうして返してくれないんだろう?)と、ちょっとだけイヤな気持ちにもなったんだけれど、(新木真子だったら、まあいいか...)という気持ちもあって、なんとなくモヤモヤした感じだけがいつまでも残っていた。

 消しゴムが返ってきたのは一週間後だった。
「あっ、そういえば、岩崎くんに消しゴム借りっぱなしだった」なんて、あっけらかんとして、ありがとう、と言って手渡してきた。次の日にはすでに、自宅から新しい消しゴムを持ってきていたので、ぼくの手元には消しゴムが無駄に2つになってしまった。

(いったい、どういうつもりなんだろう?...)なんて考えてしまう。普通だったら、消しゴムを借りて使い終わったら、その場ですぐに返すのが礼儀だと思うし、でなければ、相手が予備の消しゴムを持っているかどうか確認したうえで、その日の帰り際に返すのが当たり前だと思うんだけれど、どうだろうか。そんな風に考えてしまうぼくは、真面目すぎるのだろうか、細かすぎるのだろうか、心が狭すぎるのだろうか...。

(もしかしたら、ぼくはそんなんだからいけないのかもしれない...)なんて思ったりもする。他人に気をつかいすぎたり、周りの目を気にしすぎたりするから、人見知りで口下手で、何事にも消極的な"根暗な性格"が形成されてしまったのかもしれない。急に話しかけたら迷惑なんじゃないか、急にしゃべり出したら変に思われるんじゃないか、なんて思うから人見知りな性格になり、何を言うのが正しいのか、何をするのが正解なのか、なんて思うから口下手な性格になったんじゃないだろうか。むしろ、新木真子のように、一週間も借りっぱなしでもあっけらかんとしている方が、人として好感が持てるのではないだろうか。

(いやっ...そうじゃない。)

 もしもぼくが、あのとき消しゴムを"貸す"のではなく「この消しゴム、あげるよ!」なんて爽やかに言ってしまえるような気前のいい人間だったら、むしろその方がベストだったんじゃないだろうか...

...なんて考えながら、ぼくは、戻ってきた消しゴムのカバーを外して中を見てみた。もしかしたら、メッセージか何かが書いてあるんじゃないかと期待したんだけれど、消しゴムの中味は真っ白のままで何も書いてなかった。



 ある日のこと。
「新木真子はガサツだ」というウワサがクラスじゅうに流れた。ぼくにとってはまったく想定外の評判だった。いやっ...冷静に考えてみればあり得る話だったかもしれない。現に、消しゴム事件の一件で、ぼくだって新木真子のガサツさを目の当たりにしているわけだし。ただ、あの事件のあとでも、ぼくの彼女に対する好感度はけっして下がってはいなかった。ぼくの目には相変わらず魅力的な女子としか映っていなかったんだけどね。

 ガサツ...たとえそれが男子であっても、けっして誉め言葉とは言えないこのウワサ...きっと、女子にとってはそうとうなイメージダウンになるはずだ。たぶん、ウワサは本人の耳にも入っているだろう。彼女はどんな気持ちでいるだろうか。

 ぼくは、とっても残念な気持ちになった。
 新木真子の彼氏でもないぼくが、どうして残念な気持ちになるのかハッキリとは分からなかったけれど、きっとぼくが、これからもっと彼女と仲良くなりたいと思っていたからなんじゃないだろうか。たとえガサツのウワサがあったとしても、そんなことは気にせず仲良くなってもいいんだろうけれど、やっぱり、どうしても周りの目が気になってしまうんだ。

田辺功生の公開告白
 そんなある日、とんでもない事件が起こった。
 二時限目が終わったあとの休み時間中の教室で、クラスメイトの田辺功生が、いきなり公開告白を敢行したのだ。相手はなんと、ガサツ疑惑で評判ガタ落ち中の新木真子だった。田辺功生は、クラス内でもあまり目立たない、根暗な感じの男子だった。

 彼はおもむろにガタッと席から立ちあがり、教壇までツカツカと進み出て、一度だけ深呼吸をしてからおもむろに「俺は、新木真子が好きだぁー!」と大声で叫んだ。教室の中は、友達同士でおしゃべりをしたり騒いでいる生徒がたくさんいて、とても雑然としていた。そんな無秩序な空気が一瞬のうちに一つにまとまった。

 ぼくはそのとき、クラス内でいちばん仲が良い中井手の席の近くでくだらない話をしていた。

 生徒たち全員が、教壇の田辺功生に一斉に注目した。とりわけ、クラスの中で最も目立っている男子三人組の秋山・車田・篠崎と、いつも彼らとふざけ合っている"イケてる風オシャレ女子"たちは、田辺功生を取り囲むように群がってきて、大袈裟に拍手をしながらワイワイ盛り上がっていた。

 彼ら三人は、うちのクラス内でのスクールカースト最上位の生徒たちだ。女子のカースト構造はあまり詳しくは分からないけれど、男子は最上位の"バラモン"が秋山・車田・篠崎の三人で、まるで漫才トリオのようにおかしなことばかりして、いつも周囲を笑わせている。彼らは、笑いを取るためには手段を選ばないというか、ときには非常識とも思える大胆な行動をとって、先生に怒られることもしばしばだった。休み時間などは、"イケてる風オシャレ女子"たちと一緒になって、いつも楽しそうにワイワイ騒いでいる。(ちなみに、スクールカーストを決める大きな要素の一つは"女子との会話量"である。)

 第三位の"ヴァイシャ"は、いつもアイドルやアニメの話で盛り上がっているオタク系の、女子からはまったく相手にされない連中で、最下層の"シュードラ"は、いつも完全に孤立している、友達が一人もいない暗い感じの連中だ。

 ちなみにぼくは、中学校時代は名実ともに最下層のシュードラだったけれど、高校に入ってから積極的になろうと自分なりに努力した結果、第二位の"クシャトリア"である中井手や中山と仲良くできるレベルに達していた。中井手と中山の二人は、イケてる風オシャレ女子たちとは別の、ソコソコ性格が明るそうな女子たちとときどきしゃべったりしている。ただ...女子としゃべることがほとんどないぼくの、その"実態"は、今だにシュードラだったんだけれどね...。

※カースト制度とは、紀元前13世紀ごろにバラモン教によってつくられ、ヒンズー教に引き継がれた身分制度。上位階級から、バラモン(司祭)・クシャトリア(王侯貴族・武士)・バイシャ(庶民)・シュードラ(奴隷)の4つに分けられる。

 今、まさにバラモン男子三人組やイケテル風オシャレ女子たちに囲まれて、クラスじゅうの注目を集めている田辺功生は、これまで最下層のシュードラに位置していた。彼は教壇の上で、照れたり、テンパったりを交互にくり返しながら、取り巻き連中の囃し〔はやし〕立てる声に反応している。

 ふと、新木真子の様子が気になって振り返ってみた。友達とおしゃべりをしている最中だった彼女は、最初はしばらく固まっていたみたいだけれど、すぐに何事もなかったかのようにおしゃべりを再開しようとしていた。ただ、いっしょにいた友達の方はそういうわけにはいかず、「真子、いいの?」なんて言いながら、彼女の肩をトントン叩いたりしていた。新木真子は口ごもりながら困った顔をしていた。そうこうしているうちに三時限目開始のチャイムが鳴り、教室の中は少しずつ静かになっていった。

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