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改造人間リアルアイドル 〜第一章〜

第三話 Mちゃんの微笑み事件〔3〕

 それから一週間後の水曜日。放課後のことだった。
 大急ぎで昇降口に駆け込み、下駄箱から靴を取り出して履き替えて、まさに歩き出そうとしたそのときだった...

 陸上部の練習がある日は、帰りはいつも陸上部のみんなと一緒だけれど、練習がない水曜日だけは、ぼくは一人でソソクサと慌てて帰る習慣になっていた。特に用事があるわけじゃないけれど、二月のバレンタインデーのときにいろいろあった片山依子と、現在とても気まずい関係になってしまっていたからだ。偶然でも何でも、彼女とは絶対に帰り道でカチ合いたくなかった。だから、部活のない水曜日だけは、ホームルームが終わったらすぐに、逃げるようにダッシュで帰らなければならなかった。

 片山依子との関係だって...この先どうすれば良いのか頭では分かっていた。たとえ帰り道でカチ合ったとしても、そうなってしまったら、彼女にどんなアクションを起こし、どのように声をかければ良いのか頭では充分に分かっていた。明るく笑顔に「バイバイ!」と挨拶して、急いでいるフリをして足早に離れていけば良いだけだ。だけど...それができないんだ。(どうしてできないのか?)だって?...できないものはできないんだよ。きっと、ぼくの勇気と行動力の問題なんだと思う。

...と、次の瞬間。どこからか「岩崎くん!」と呼ぶ声が聞こえたんだ。一瞬、ギクッとして身構えた。

「岩崎くん!」

 もう一度、今度はさっきよりも大きな声で呼ばれた。女子の声だ。誰だろう...まさか!?

(もう、ここで覚悟を決めるしかないのか?...何か、この大ピンチを回避する方法はないのか?)

Mちゃんの微笑み事件
 振り返った方が良いのか、振り返らない方が良いのか、気がつかなかったフリをするのが良いのか、とっさに判断することができなかった。もしも、この"地獄の使者"からの呼びかけに応じてしまったら、今日の帰り道はどんなに悲惨ことになってしまうだろうか?

 ギクッとして身構えながら、ぼくは頭をフル回転させて考えた。それこそ一秒にも満たないこの一瞬のあいだに、何通りものリアクションと、その結果としてそれぞれどのような展開になり、どのような結末が待っているのかを予測しなければならなかった。そして、それら何通りもの展開と結末の中で、今ぼくが選択すべきリアクションを導き出さなければならなかった。

 だけど、結局はただ頭の中が混乱しただけで、何一つ答えを導き出すことができなかった。頭の中が空っぽになり、その空洞の中の温度がグングンと上がっていくばかりで、冷静に考えることができなかった。追い詰められたぼくは、イチかバチか声がする方向に振り返ることしかできなかった。

「岩崎くん!」と呼ぶ声の主は、同じ陸上部員の川崎麻紀だった。片山依子じゃなかった。 ぼくと目が合った川崎麻紀は、明るく元気な声で「バイバイ!」と、満面の笑顔で大きく手を振ってきた。彼女の手の動きにつられるように、とはいえ、突然の出来事に戸惑うように、ぼくは肘〔ひじ〕から先だけを上げて小刻みに手を振って「バ...バイバイ...」と返した。ぼくのリアクションを確認した川崎麻紀は、満足そうな顔を見せたあと、再び廊下の方へと引き返していった。

 今のはいったい何だったのだろうか?
 まったくの意味不明である。まあ、それもそうなんだけれど、ぼくはまず(よくとっさにリアクションできたもんだ)と、我ながら感心してしまった。これがもしも、中学校時代の、今よりももっと暗い性格だったころの自分だったら、何が何だか分からずに混乱したあげく、彼女の挨拶を無視せざる負えなかったところだった。だけど、今のぼくは、とりあえず相手を満足させられるリアクションをとることができたのだ。とりあえず、自分自身の"成長"を再確認できて良かった...なんて最初に少しだけ思ったんだけれど、そのあとすぐに(本当に、今のはいったい何だったんだろう?)という疑問にさいなまれてしまったんだ。

 確かに...川崎麻紀は同じ陸上部の部員で、しかも同級生でもあり、けっして知らない者同士というわけではない。だけど、彼女はとてもおとなしい性格で、ぼくと同類のいわゆる"異性限定の人見知り"な性格でもあったはずだ。高校に入学して陸上部に入部して以来、この1年と数ヶ月のあいだ、おそらくお互いに一度も言葉を交わしたことはなかったはずだ。

(なのに、今のはいったい何なんだ?...)

 確かに...お互いに顔と名前は一致する間柄ではあるし、日曜・祝日と水曜日以外は毎日部活で一緒に練習しているけれど、さっきのように大きな声で相手の名前を呼び、相手を振り向かせるまでして、元気に明るく「バイバイ!」などと笑顔で挨拶するほど親しい間柄ではなかったはずだ。百歩譲って、登下校の途中で偶然カチ合ったり、たまたま目が合って、控えめに「バイバイ...」と言うのであればまだ分かる。だけど、さっきのはぜんぜんそんなんじゃなかった。

 さらに不思議なのは、彼女はさっき「バイバイ!」と元気良く挨拶したあと、再び廊下の方へと引き返していったことだ。まるで、次にバイバイと挨拶する新しいターゲットを探しに行くかのように...。

(いったい、何の目的で?...)

川崎麻紀
 少し前までのぼくだったら、女子にこんなことをされたら勘違いしてしまうところだった。片山依子のときのように(もしかして、ぼくのことが好きなのだろうか?)なんて勘違いしてしまうところだった。だけど、今はあまりそうは思わなかった。きっと、川崎麻紀は何かとっても良いことがあったのだろう。何か嬉しいことがあって、名前と顔が一致する相手であれば、誰かれ構わず手当たりしだいに元気に挨拶したい気持ちなんじゃないだろうか。それにしても...

(それにしても...この気持ちはいったい何だろうか?)

 ぼくの中に、温かくて優しくて、それでいてドキドキワクワクするような新しい感情が芽生えていた。まさに今、この瞬間に生まれたばかりのこの気持ちはいったい何なのだろうか?

 言葉にするのはちょっと難しい。たった一度だけ川崎麻紀と挨拶を交わしただけなのに、心がとっても満たされてしまった。やっぱり、ぼくは恋をしてしまったのだろうか? いやっ、そんなはずはない。さすがに今のぼくなら大丈夫だ。勘違いなんかしない。片山依子のときとは違って、ぼくは確実に成長しているのだから。



 その日の帰り道はずっと気分が良かった。なんていうか、心の中がほんのり温かくて優しくて、それでいて変に高揚感があり、まるで柔らかくて肌ざわりの良い綿にでも包まれているような感じだった。夕陽がとてもまぶしく見えて、あらゆる光が希望に満ちて、川を渡る風が爽やかで、ここしばらくのあいだ、新木真子と田辺功生の一件で劣等感を抱いたり自信を失ったり悩んでいたことが、みんなスーッと霧のように消えてしまったような感覚だった。将来に対する大きな不安や、自分を悩み苦しめるさまざまな出来事のすべてが、もはやどうでも良いことに思えてしまうような夢心地な感覚だった。

 一晩寝て、次の日になると、夢心地な感覚はほとんど消えてしまっていた。それでも、あの瞬間の川崎麻紀の笑顔や、元気で明るい「バイバイ!」の声を思い出すことで、あの夢心地な感覚を蘇らせることができた。とはいえ、いつまでも夢心地な感覚に浸って現実逃避の世界に逃げ込んでいるわけにはいかないことも、ぼくには充分に分かっていた。ガサツ疑惑によって、新木真子への気持ちから逃げてしまったぼくと、それでも公開告白を敢行した田辺功生...ぼくと彼とのあいだには、人として"雲泥の差"があるのは確かだからだ。 この現実だけはキチンと直視しなければならない。けっして目を背けるわけにはいかない。だけど、ぼくはこれからどうすればいいのか。田辺功生に受けたこの"屈辱"をどう晴らせばいいのか...

(いやっ、何を言ってるんだ!)

 そうじゃない。屈辱を晴らすとかじゃなくて、自分自身をもっと成長させて魅力を高め、これまでのような失敗の連鎖を断ち切るために、具体的にぼくは何をどうすれば良いのか考えなければならないんだ。

 田辺功生を見習って、ぼくも新木真子に告白するべきなのだろうか。いやっ、それはダメだ。表面上は平静を装っているけれども、きっと、新木真子はあの公開告白を迷惑に思っているはずだ。あれ以来の新木真子の雰囲気から、それがなんとなく感じ取れる。明らかに、いつもより元気がなくなっている。おそらく、彼女なりにストレスを感じているのだろう。多かれ少なかれ悩んでいるのだろう。そんなときに、ぼくまで告白なんかしようものなら、彼女を余計に悩ませてしまうだろう。

 仮にぼくが告白をして、それで上手くいってつき合い始めたとしても(あり得ないこととは思うけれど...)、それはそれで、田辺功生の立場を完全に失わせてしまうことにもなる。公開告白は、上手くいけば良いけれど、上手くいかなければ目もあてられない状態になってしまうリスクがある。

 ああ、本当に、どうしたら良いのだろうか。ぼくは、これから何をすれば良いのだろうか。昨日の川崎麻紀の笑顔を思い出してみる。バイバイと言ったその声と、大きく手を振っていた彼女のあのシルエットを思い浮かべてみる。そして、現実逃避に逃げ込む...と、そのとき。

(ああっ、そうか!そういうことか...)

 ぼくは、唐突に閃いた〔ひらめいた〕んだ。

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