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改造人間リアルアイドル 〜第一章〜

第三話 Mちゃんの微笑み事件〔4〕

 朝、家を出て、自転車で駅に向かう。駅前の駐輪場に自転車を停めて、いつもより一本早い電車に乗り込む。学校の最寄り駅から、住宅街を抜けて川沿いの道を歩く。いつになく輝いて見える太陽が、希望に満ちた一日を約束してくれているかのようだった。毎朝見ているいつもの風景が、今日のぼくにはまったく別のモノのように見えていた。

 そう、今朝のぼくは、昨日までとはまったくの別人なのだ...まさしく"新生・岩崎純夜"として生まれ変わったぼくは、自宅を出てからずっと胸がドキドキと高鳴っていて、(今日は、いったいどうなるだろうか?)と、期待に胸を膨らませていた。

松本なるみ
 記念すべき最初のターゲットは松本なるみに決めていた。ぼくの隣の席の女子だ。真っ先に思い浮かんだのが彼女だった。

 まずはリスクが少ないところから始めようと考えた。特に可愛いわけでもなく、かといってブスでもない。見た目的にはごく平均的なレベルの女子だ。直接話したことは一度もないけれど、周りの友達とのやり取りを見る限りでは、とても親しみやすい雰囲気の女子だった。音に反応しやすいのか、反射行動が単純なのか、それとも思考と行動がシンプルなのか分からないけれど、不思議と目が合いやすい子だった。きっと、性格がとても良いのだろう。

 チャンスは一瞬だ。これが初めての試みになるわけだけれど、なるべく不自然にならないように気をつけよう。ぼくが先になるか、彼女が先になるか分からないけれど、二人とも着席して、最初に目が合った瞬間がそのタイミングだ。

 教室に入り、さりげなく辺りを見回してみる。どうやら彼女はまだ来ていないようだった。とりあえず自分の席について、テキトウに国語の教科書を開いて予習しているフリをしながら、彼女が来るのをじっと待った。登校してくる生徒が増えるたびにザワザワとにぎやかさを増していく朝の教室。そして、待つこと十数分、ついに松本なるみが姿を現した。友達とすれ違いざまにひと言ふた言言葉を交わしてから、彼女はスタスタと歩いて隣の席に着席した。

「(あの...)松本さん!」

 こういうときについつい付けてしまう接頭語の「あの...」は自信のなさを感じさせてしまう。だからぼくは、この接頭語の「あの...」は頭の中でつぶやくだけにして、けっして声に出さないようにと決めていた。

「えっ?」

 松本なるみの目が、一瞬だけ見開いたのが横顔からでも分かった。

 彼女は、ちょっとだけ不思議そうな表情をして、ぼくの方にクルッと振り向いた。そして、お互いに目が合った瞬間に、できる限り明るく、できる限り元気良く、そして、できる限り声にメリハリをつけて...ぼくは決戦にのぞんだんだ。

「おはよう!」
「あ...ああ、おはよう。」

 彼女はビックリしたみたいだった。
 あの日、帰り際の昇降口で、川崎麻紀に挨拶されてビックリしたときのぼくも、きっとこんな感じだったのだろう。ちょっと呆気にとられたような表情で、(急にどうしたの?)とでも言いたそうな口元を見せる松本なるみを尻目に、ぼくはすぐに手元の国語の教科書へと視線を落とした。そして心の中で...

(やったー! できたっ、できたっ、M作戦は大成功だー!!!)

...と叫んでいた。

 ここまでが限界だということを、ぼくはシッカリと自覚していた。今のぼくにできるのは"ここまで"だ。仮に挨拶だけでなく、さらに会話を続けようとしたり、ここから一気に仲良くなろうと頑張ったりしても、それは、今のぼくには無謀な挑戦にしかならない。だから今は挨拶だけで良いんだ。挨拶だけでも充分に目標を達成することができる。けっして深追いしてはいけない。けっして無理をしてはいけないんだ。

 川崎麻紀が教えてくれた。挨拶一つで、あれほどまで嬉しい気持ちや温かい気持ちやドキドキワクワクした気持ちになれるんだってことを。だからぼくも、川崎麻紀のマネをしてみようと思ったんだ。

 ぼくは、この作戦を"M作戦"と呼ぶことにした。この作戦を実行するには、そこそこ勇気が必要だ。だけど、実はこの作戦は、自分のためにやっているわけじゃない。自分のためではなく、あくまでも"相手を喜ばせるため"にやっているんだ。あのとき、川崎麻紀がぼくを喜ばせてくれたように、ぼくも相手を喜ばせられる存在になりたいと思ってやっている。だからこれは、あくまでも相手を喜ばせるのが目的なんだ。

 また、実際にやってみて分かったんだけれど、"自分のため"と思ってやろうとすると相当な勇気が必要なことでも、"相手のため"と思ってやれば、不思議と簡単に勇気を出すことができる。自分が今、自分のために何もできないのであれば、せめて誰かの役に立てる人間になりたい。M作戦はいわば、自分の幸せを他人の幸せで穴埋めする、一種の"代償作用"の行動でもあるんだよ。

 ここしばらくのあいだ、ぼくは新木真子と田辺功生の一件ですっかり落ち込んでしまっていた。これ以上、失うものなど何もないっていうほどに落ち込んで、この先ぼくは何をすれば良いのか分からなくなっていた。たとえ分かったとしても、たぶん何もできないだろうと、自分の非力さに絶望していた。

(自分が幸せになるために、できることは何もない。あったとしても何もできない...)

 そんな絶望的な状況の中に、一筋の光が差し込むように思いついたのが、このM作戦だったってわけだ。そして、絶望したときにできる唯一のことは、他者貢献だけなんだってことを、今、ぼくはあらためて確信したんだ。

(...だったら、自分以外の誰かを幸せにすることを考えよう。)

 バレンタインデーのころ、片山依子と澤田麗香に前後から挟み撃ちにされて危機的状況に追い込まれたとき、もしもぼくがこのM作戦のような意識を持っていたら、きっと、前に進むにしても後に下がるにしても、もっと気軽に動けたんじゃないかと思う。

 前に進めば片山依子と爽やかな挨拶、後に下がれば澤田麗香と自然な挨拶...このどちらでも自由自在に選ぶことができたんじゃないかと思う。実際には、窮地に追い込まれ、混乱した頭で片山依子に無謀な告白をしてしまった。あれはあれで後悔はしていないけれど、もしもあのとき他者貢献のような気持ちがあったとしたら、そのあとの片山依子との関係においても、もっと上手に振る舞えたんじゃないかって思った。

...まあ、これからぼくがやろうとしていることは、なにも、女子に"告白しまくろう"ってことじゃない。ただの挨拶だ。明るく、元気に、ハッキリとした口調で、先に相手の名前をキチンと呼んでから、今まで一度も挨拶をしたことがない相手に対して行なう、たたの挨拶なんだ。なにも、片山依子との一件を引き合いに出すほどの大袈裟なことじゃない、本当にただの挨拶なんだよ。だから、そんなに重苦しく考えることはないんだよ。



 次の日の英語の授業中のこと。

「absoluteって、意味は何だっけ?」

 なんと、松本なるみの方からぼくに話しかけてきたんだ。

「確か...絶対の、とか、完全な、とか、そんな感じの意味だったと思う。」
「ありがとう。」

...これが、すべての始まりだった。
 もしかしたら、ぼくは松本なるみと友達になれたのかもしれない。そう思ったら、とても嬉しい気持ちになった。(だとすると、ぼくにとって初めての"女子の友達"ってことか...)ある意味これは、彼女ができるのと同じくらい価値があることかもしれない、とも思った。

 これからのぼくは、少しずつ変わっていくだろう。きっと、昨日のM作戦によって、松本なるみも多かれ少なかれ嬉しい気持ちになってくれたのだろう。あのときのぼくみたいに、温かい気持ちやドキドキワクワクした気持ちまで感じてくれたのかどうかは分からないけれど、少なくても、これで松本なるみとは、タイミングさえ合えば自然に挨拶し合えるような間柄になれるだろう...なんて思った。

 さて、次は誰にターゲットを絞ろうかな?

つづく
次回予告:第3話:Mちゃんの微笑み事件

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